佐藤耳no耳

佐藤耳といいます。小さな詩のような物語を不定期で書いてゆきます。また、読めばなんだかすっきり?為になる?「きょうの呪文」もできれば頑張って更新したいな。いずれは小説とかも発表するかも、です。幻想的な文章、少し怪奇成分の混じったものが大好きなんですが、ホンモノのオバケは苦手だよ。写真、イラストはすべてフォトAC様、イラストAC様から。心より感謝しています。また規約に則って使用させていただいています。

星の娘たち

ペパーミントの息でもって冷たい月を吐いたり、吸ったりしている女の子がわたしです。
心が氷になった晩のこと。星の豪雨が降りました。やがて星の雨がやんだ朝、うるわしい緑の大気であふれてる。
午前四時のビルの屋上。初夏の爽やかな自殺者は、きれいな体で、きれいな空気に抱かれ、流星みたいに飛び降ります。


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落ちながら、短かった一生分の記憶が走馬灯となって駆けめぐる。そうして思い出すのは、たとえば雨の降る冬の朝。
曇ったショップのガラスごしに街をみながらひとり、ドーナツを食べてるわたしとか、かじかむ指に息を吹きかけるわたしとか。
死のまぎわ、そんな些細なことが大切だなんて知りもしなくて、いとおしくて、でももう取りかえしがつかなくて。



地上に激突するぎりぎりの瞬間、コンマゼロ秒の単位で時間は停止します。あれ? きのう落ちてきた星の子がやってくるではありませんか?
彼女はいきなり怒りだします。きみが落ちたら、せっかく落下してきたわたしたち、また宇宙へと上がらなきゃなんない。
上に上がれば下に行く。減りもしなければ増えもしない。だって素敵なバランスで保たれてるのが宇宙なんだもん。



ようするに星の子は、わたしが飛び降りたら、バランスを保つために、自分らは上昇しなきゃならないと、言うのです。
だったらこの沈んだ気分も、いつか上がるんだね、とわたし。そうとくれば、死ぬの、やめよっか。もう一度、生きてみよっか。
星の娘が落ちた地球を踏みしめながら、氷もいつしか溶けだして、動きだした時間の森を、わたしは颯爽と歩きだすのです。