夏の朝、宇宙卵を産む少年
君は男の子だっていうのに、いろんなものの卵を産んでは育てたい、と思う、まったくお母さんみたいな少年なんだね。
キラキラひかる緑の石や、かわいい動物のシールを集めたり、クッキーとかを焼く君が、いちばん愛してる色鉛筆はやっぱりピンク。
わたしなんかより、とっても女の子らしいところが満載だけど、君のなかにすむ「お母さん」が愛情たっぷり、卵を産むんだね。
■
朝はやい時間。草色のすきとおった、きれいな風のなかで君は、草の宇宙の卵をうむ。それがそもそもの草のオリジン。草のはじまり。
かと思えば、君は、おサカナの卵だってうんじゃう男の子なんだ。水にしたしむ骨格のたしかさがうまれ、鱗のなめらかさが泳ぎだす。
そんな君をみてるのがわたし、ちょっと悔しくて、君がうんだ卵を盗むのです。ばーか。君はさぞかし困るだろうね。ふふふ。
■
でも、困ったのはわたし。馬鹿なのはわたしでした。じっさい、卵はありとあらゆるものの卵だったから、とんでもないことが起こったのです。
夜のひそやかな卵を、あるいは昼間の光の卵を、それから太陽の卵を、言葉や夢、愛や思いやりの卵さえ盗んで、わたし、捨ててしまったの。
わたしのいるところは闇さえもない、まったくのゼロとなり、やがてわたしすらあったのか、なかったのか、もう思い出すことすらできなくて。
■
ああ、もうすべてが消えてしまうんだ、と思ったときです。君はちっとも怒ったりせず、まず爽やかな夏の朝の記憶をよみがえらせました。
君は、まったくお母さんみたいに優しく、こんどは宇宙そのものの卵をうみ落とし、そしてわたしはふたたび、新しい宇宙で産声を上げたのです。
夏の朝の青々とした空の下、まだ夜は明けきらない薄闇のなか。ひかる星の卵を、君は産みだし、わたしは寄り添いながらお手伝いをするのです。