雲の呪術師
なんでも心配してくるあの子は、雲の呪術師。雲をガラスの壜に閉じこめては、観察するのが日課です。
彼女は言ってた。ずっと雲をみていると、人間からみた雲じゃなく、雲からみた人間がみえてくるんだって。
呪術師のあの子自身が、いつしか壜のなかにはいりこみ、ミニチュアの雲となってガラスのアオゾラを流れてる。
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だからいっつもわたしの感情を、壜のなかにいながらにして眺め、えらそうに批評してくる。すっごく、腹が立つの。
雲となった彼女には、人の感情が雲にみえて仕方ない。他人の感情が読めちゃって、口出ししたくてたまんない。
だけど、彼女ったら、わたしが怒っていることに気がつかないでいるのです。笑っちゃう、まったく。
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というわけで、とっても意地悪なわたし。雲となった彼女の入った壜にじょうろで水をそそぎこみます。
それからどうしたと思う? あのね、わたしは服を脱ぎ、裸になって、きれいな黄色の小魚となります。
ぴちゃん。小さな魚は洪水状態の壜に飛びこんで、思いっ切り呪術師のワールドをかき混ぜ混ぜにしちゃうのでした。
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清らかな雲もいいけど、わたしは雲なんかじゃなく、魚のほうがいい。あなたの思惑を木っ端みじんにしてごめんね。
だけど、壜のアオゾラのふちにまで水があふれ、雲と魚が一緒に泳いでいる光景なんて素敵だと思わない?
お節介な神さま気分はもうやめて、さァ、むくれてないで泳ぎましょう。傷ついている暇なんてないんだからね。