佐藤耳no耳

佐藤耳といいます。小さな詩のような物語を不定期で書いてゆきます。また、読めばなんだかすっきり?為になる?「きょうの呪文」もできれば頑張って更新したいな。いずれは小説とかも発表するかも、です。幻想的な文章、少し怪奇成分の混じったものが大好きなんですが、ホンモノのオバケは苦手だよ。写真、イラストはすべてフォトAC様、イラストAC様から。心より感謝しています。また規約に則って使用させていただいています。

チョコレート・カッシーニ

バレンタインデーに告白の手紙と一緒にチョコをもらった笹山くんですが、途方に暮れています。勿論嬉しかった。だって初めての告白だったもの。
百合子さんは可愛いというより優雅で可憐な女の子。そんな子からチョコを贈られたわけで、舞い上がってもよさそうなのに笹山くんは悩みます。
彼女はメランコリアに取り憑かれた少女だから。憂鬱そうな顔をして教室でもひとり、お喋りしない。口からは、ため息ばかりが漏れるのです。


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勇気をふるい、教室で話しかけても黙っている。一緒に帰ろうと、校門の前で待っていても無視される。好きです、と手紙までもらったというのに。
めげる心と恋の甘さがミックスする感傷的な笹山くんは、冬の夜空を見上げながら帰途につきます。すると彼の眼に、土星が飛び込んでくるのです。
占星術でいう、胆汁質の憂鬱な惑星。肉眼では視覚できないシリウスの伴星がドゴン族の人にわかるように、彼には土星のリングかみえるのです。



もしかしたら、と思い、大事に鞄にしまっていた箱を取りだし、リボンをほどきます。すると中からあらわれたのは、土星を象ったチョコでした。
手作りのチョコだったからテンションは上がります。暗い気分だったのに、宇宙だって飛べる気になってきます。そして彼は旅に出る。宇宙の旅に。
イマジネーションと現実のシンクロ。彼はチョコでできた探査機、カッシーニとなり、これまた、とりわけビターなチョコの土星へと赴くのです。



怒りっぽく、憂鬱な少女は土星の星のもとに生まれました。ですが、カッシーニ土星に接近するにつれ、ラムのお酒の豊かな香りに気が付きます。
土星はまた、農耕の神。収穫の時を待ちます。カッシーニは調査する。百合子さんは、土星の中でお酒が発酵し、成熟するのを待っているのだ、と。
夢から覚めた少年はチョコを口に入れました。ラム酒の苦さと熱がひろがり、しばし酩酊を愉しむ彼。そして少年は、新たなる夢にめざめるのです。