小惑星と女の子
ひとりぼっちでもないし、お友だちがいないわけじゃない。でもミキちゃんは、いっつも教室のソトばっかり、みてる女の子なのです。
彼女がもっか、観測中なのは、空をすかし、成層圏をすかし、熟してない林檎より、もっと青い宇宙の渚よりも遠い、冷たい宇宙。
だってミキちゃんの視力はすごい。小惑星探査機『はやぶさ』の軌道を裸眼で、しかも昼間っから追尾できるくらいパワフルなんだもの。
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めざすは『りゅうぐう』という名の小惑星。ミキちゃん、いわく。探査機はさしずめリュウグウノツカイ。銀にきらめく宇宙の深海魚みたいだね。
なんで宇宙に浮かぶ、無価値な小惑星に行くのか、謎だったけど、彼女はこんなふうに語ります。リュウグウノツカイは臍の緒なんだよ。
そして、臍の緒で地球と『りゅうぐう』をつなぐのが目的なの。そうすることによってわたしたちの意識がひろがり、ふかくなるの、って。
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ミキちゃんは、だから不思議な子ども。宇宙と蟻がいっしょの存在だとわかってて、蟻や砂のひとつぶに宇宙が息づくのをみてる娘なのです。
瞳はあまりに深すぎるところをさぐっていて、わたしのことなんか、すどおりして気がつかない。すきとおりすぎていてわたしのことが入らない。
涙ぐんで呼びかけても、ただ、しずかに微笑んでいるばかり。ミキちゃんのいる宇宙はひろいけど、やっぱり冷たく凍った宇宙なのでしょうか?
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いいえ、わたしはそうは思いません。だったらわたしもミキちゃんのいる竜宮城をめざし、銀のリュウグウノツカイを放ちましょう。
ほら、ミキちゃんのなかで小惑星がみつかる。小さな石ころだらけの惑星の上、ミキちゃんが笑いながら、「おおい」と手をふっている。
あなたの旅の目的はなあに?と問われたらわたし、こう答えます。ミキちゃんと出会う旅がたのしくて、そしていまも深々と旅の途中なのです、と。