佐藤耳no耳

佐藤耳といいます。小さな詩のような物語を不定期で書いてゆきます。また、読めばなんだかすっきり?為になる?「きょうの呪文」もできれば頑張って更新したいな。いずれは小説とかも発表するかも、です。幻想的な文章、少し怪奇成分の混じったものが大好きなんですが、ホンモノのオバケは苦手だよ。写真、イラストはすべてフォトAC様、イラストAC様から。心より感謝しています。また規約に則って使用させていただいています。

檸檬(レモン)太郎が誕生します

お伽噺のキャラクターを演じてみたい、そんなふうに思うことがわたしにはあります。たとえばの話、一寸法師になり切るって、どんな気分かな?
長いこと昔話として語り継がれてきたキャラには、とんでもない力が秘められていたり、ふだんは感覚しない、奇想天外な視点を持ってるものです。
だからわたしも、ちっちゃくなって、お碗の舟にのり、川を旅することにしました。わたしの一寸法師アドベンチャーのはじまり、はじまりっ!


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わたしは女の子だけど、一度でいいから一寸法師になってみたかったのです。ちっちゃくなれば、川鳥や、野ねずみ、虫たちとお話しできるもの。
波にゆられ、川を下っていると、眼に水のエッセンスがしみてきて銀色の風景が、虹のしずくとともに、おだやかにきらきら、流れます。
カエルが舟のそばを横切ったり、お箸の櫂の上にトンボが止まったり、夏草のなびく水辺でキツネの子が黒いお鼻を寄せてきたりもするのです。



葡萄が流れてきたので、舟に拾い上げました。すきとおった緑はよく発酵し、甘いお酒となった果汁をわたしがごくごく、呑んでいるときのこと。
薄ぼんやりとした影が舟を襲ってきます。お碗はぐらぐら、ゆれて今にも転覆しそう。はて、何がやってきたのかな? お碗にしがみつく、わたし。
見れば、それはツバメの子でした。しかも卵から孵ってすぐ死んでしまったから、生まれたことも自覚できなかった、憐れな子どもなのでした。



ツバメの子は、幽霊の鳥です。幽霊はふんわり川面のすぐ上を漂い、訴えます。もっと夏を思うさま、力いっぱい、生きてみたかったのに!、って。
ちょうどうまい具合に檸檬が流れてきたので、わたし、言いました。なら、ふたりで檸檬のなかに入って眠ろうよ。そして誰かが拾うのを待つの。
そうです、桃太郎ならぬ、檸檬太郎なのです。こうして新しい昔話は、ツバメの子とわたしが一つになり、檸檬太郎誕生からリスタートするのです。

檸檬太郎、って、ちょっと酸っぱい感じのする、幸せの予感がたっぷり、お伽噺のニューヒロインなのかもね。