わたしの庭に舞い降りる小鳥
ノッポにして飄々、スタイリッシュじゃないけど、黒のタキシードをさりげなくまとった少年が庭にやってきました。
庭師、のつもりでいるのかな? スコップまで手にした少年。よくよく見ると、彼は隣のクラスの井上くんでした。
少年はいいます。この男の子と、あなたとは将来、結ばれる運命にあります。昼間の井上くんはその事実、知らないけど。
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わたしの心には、庭があります。香草や花、樹の葉っぱが風にゆれ、ゆたかにみのるわたしの庭。庭を育てるとは、魂をはぐくむのとおなじこと。
そして、庭に人はいないはずで、はいるのを許されているのは小鳥だけなのです。鳥が飛んでこなければ、たねも庭には落ちない、花も咲かない。
隠された庭でありながら、外とつながっていられるのは小鳥がたねを運んでくれるから。でも、なぜ? どうして井上くんがここにいるの?
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アリストテレスがどんな人なのか知りたければ、彼の丹精した庭に咲く花を一輪、もってかえればよいのです。そう井上くんはいいました。
たとえ秘密をみせあわなくても、おたがいの庭に咲く花の色、においを愉しめるなら、心がかよいあい、ほほえむことだってできるのです。
井上くんは鳥となり、わたしの手から羽搏いてゆきました。鳥は聖霊の息吹をまとった天使のようなもの。天使だけが、たねと手紙を運ぶのです。
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井上くんは鳥となって福音を告げ知らせる手紙をくれたけど、ふだんはそんなことを覚えていない。それが秘密の庭の掟です。
わたしだって、朝めざめたなら、庭にやってきた井上くんのこと、すっかり忘れてしまうでしょう。なら、わたし、どうしたらいい?
気がついたら、朝のひかりにむかって翼をひろげたわたしがいました。恋の予感がそうさせた。彼の庭に舞い降りるため、小鳥になったの。