空のこと忘れないよ、わたし
鳥の羽根を持ってるわたしが飛べなくて、持ってないキミが空を飛べるなんて、どうしてだろうね?と思っちゃう。
それにしてもおかしな話だよね。水中で羽搏くペンギンみたいに、キミは空にいるときだけは元気いっぱい。
おーい、と手をふるわたしを無視して、遠くに飛んでいっちゃう。わたしは置いてきぼり。ひとりぼっちで、しくしく泣くのです。
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わたしはとっても不満だったけど、なにかを手に入れたなら、結局なにかを手放さなきゃならない。だからわたしはいま、ここにいます。
鳥の羽根は、魔法の道具。空を飛べない代償に、魔法の羽根はお願すれば、なんだってかなえてくれる。だけど、きみはここにいないのです。
わたしが正直、そうしたかったから、死ぬほどの寂しさに苦しめられたって我慢します。だってそれが、守らなきゃいけないルールだから。
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みんなは我慢なんかしない。空を飛ぶのを忘却できたなら、もう寂しさに苦しめられることなんてないのだから。でも、わたし、忘れたくない。
いつまでも空にいた、懐かしの日々をを覚えていたいし、もし忘れたなら、キミは死んでしまう。お空の天使も墜落してしまうでしょう。
ですので、わたしはここでは少し変わり者の人生を歩いてゆくのです。夢のような桃のジャムを、空想のスプーンですくって、食べるのです。
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でも、ときおり、気になるのか、オリーブの木の影で深く眠っているときにだけ、キミはやってきて、ほんの少しのあいだ、寄り添ってくれます。
夢なんかみない、ほんとうに深い海のようなお昼寝にかぎられるのだけど、キミがわたしを慰めてくれるのを、わたし、知っています。
いつか空に還るその日まで、わたしが笑って暮らせるのも、いくら寂しくても空のことを忘れないから。いつの日にか、きっと、ね?